国際科学コミュニケーションイベントFalling Walls Lab Tokyo

© DWIH Tokyo

ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京(DWIH東京)とユーラクセス・ジャパンは、2016年8月29日(月)にドイツ文化会館にて、国際科学コミュニケーションイベントFalling Walls Lab Tokyoを開催しました。世界にある「様々な壁を打破する」ことをコンセプトに、あらゆる国籍および専門分野を対象として書類審査を経た15名の若手研究者が、3分間で自身の研究活動を英語で熱く語りました。会場には日独の産官学の各界からの参加者および報道関係者らが集結し、熱い一日を見守りました。

イベントではまず、主催者のDWIH東京ディレクター、クリスティアン・ハイデックと、ユーラクセス・ジャパン日本代表マチュ・ピー氏から、主催団体およびFalling Wallsについての説明がありました。引き続いて15名の若手研究者による3分のプレゼンテーションが始まると、会場が一気に熱気に包まれました。スクリーンに映し出された資料を示しながら熱く語る若手研究者。3分間たつと容赦なく鐘が鳴り響きます。途中コーヒーブレイクをはさんで、15名の発表が終わると、会場と参加者と発表者の質疑応答の時間です。その間、審査員は別室で審査を行いました。

ベルリンの決勝大会への切符を掴んだのは1位のMs. Alina KUDASHEVA(東京工業大学)でした。他の入賞者は2位のMr. Matt ESCOBAR(東京大学)、3位のMs. Ery FUKUSHIMA(大阪大学)です。結果発表では会場から大きな拍手が湧きおこり、受賞者が喜びの言葉を述べました。

イベントに引き続き開催されたレセプションでは、発表者らも先ほどとはうって変わり、リラックスした雰囲気で歓談していました。国籍や専門分野、組織の「壁」を越えた交流の場となりました。

本イベントは、ベルリンの壁の崩壊を記念して設立されたFalling Walls財団が運営母体となり、2011年からベルリンで毎年開催されています。現在30ヶ国以上が参加し、世界各地で予選を勝ち抜いた入賞者が11月8日にベルリンで開催される決勝大会に集結します。日本では2014年に仙台で東北大学が東アジア地域初めての予選大会を開いて以降毎年開催しているのに加えて、今回初めて東京で予選大会が開催されました。

 

Falling Walls Lab Tokyo 2016入賞者

1
Ms. Alina KUDASHEVA
Tokyo Institute of Technology
Breaking the Wall of Global Water Shortage

2
Mr. Matt ESCOBAR
The University of Tokyo
Breaking the Wall of Data Visualizatio

3位 

Ms. Ery FUKUSHIMA
Osaka University
Breaking the Wall of drug development using plant genes

審査員

ハインリッヒ・メンクハウス(審査員長)
明治大学大学院法学研究科 専任教授
ドイツ語圏日本学術振興会研究者同窓会長

ヘルムート・ヴェニシュ
シーメンス株式会社 技術本部長

アンデーシュ・カールソン
Vice President, Strategic Alliances, Global Academic Relations
Elsevier

竹内 彩乃
東邦大学 理学部⽣命圏環境科学科 専任講師

長谷 彩希
ドイツ研究振興協会 日本代表部 副代表

原山 優子
総合科学技術・イノベーション会議議員

 

(五十音順)

 

Falling Wallsについて

Falling Wallsは、学術界、経済界、政界、芸術、社会のためのユニークな世界的プラットフォームです。Falling Wallsはベルリンの壁崩壊20周年を記念して2009年に開始され、毎年ベルリンで開催されています。世界トップレベルの科学者が講演を行うカンファレンスでは、ノーベル賞受賞者、芸術家、各国首脳を含む、あらゆる分野の科学者167名がこれまで演台に立ちました(2009~2015年)。若手研究者が発表するFalling Walls Labは2011年に開始され、2015年までに世界各地の予選大会に総計1500名が参加、500名がベルリンの決勝大会に臨みました。Falling Walls財団は、ドイツ連邦教育研究省、ヘルムホルツ協会、ロバート・ボッシュ財団、ベルリン上院をはじめ、多くの学術機関、財団、NPO、著名人の支援を受けています。

インタビュー Falling Walls Lab Tokyo2016 3位入賞の福島エリ・オデット助教 「自分の考えの要点を人に伝えられる自信がつきました」

ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京(DWIH東京)は、ユーラクセス・ジャパンと共催で、2016年8月29日(月)にドイツ文化会館にて国際科学コミュニケーションイベントFalling Walls Lab Tokyo (FWL Tokyo)を開催しました。世界にある「様々な壁」を打破することをコンセプトに、3分間のプレゼンテーションを15名の若手研究者が行いました。その中から3位に入賞した、福島エリ・オデット大阪大学助教にインタビューを行いました。

エリさん、自己紹介をお願いします。

福島エリ・オデットと申します。日系ボリビア人です。私の仕事の出発点は、ボリビアという、きわめて多様性に富んだ国で生物学を専攻しようと決めたことにあります。ボリビアは生物界の遺伝的多様性、したがってあらゆる生物資源の多様性が非常に大きいところで、私は特に植物の多様性に魅せられたのです。学部学生のときに保全生物学のNPOの設立に参加し、植物とその利用を主な研究対象とするようになりました。卒業研究ではボリビア産の薬用植物数種の産生する天然化合物の生物学的性質を取り上げました。その後ボリビアの伝統的な民間治療師と仕事をする機会があり、植物にはまだまだ未知の領域が多く、大きな可能性が秘められていることを確信しました。そこでこの分野の研究を続けたいと思い、第二の故郷である日本で修士課程、さらに博士課程を履修することにしたのです。その間に植物学の分子的な側面の知識を蓄え、植物が合成する天然化合物の研究にバイオテクノロジーの手法を適用して、さらに多くの物質を産生させる可能性を確認しました。そのようなわけで、大阪大学の助教のオファーがあったとき、若い人たちをこの魅力的な分野で指導すると同時に、この研究を続ける機会でもあると思ったのです。

いま大阪大学の助教をしておられますが、なぜ大阪大学を選ばれたのか、また現在どのような研究をされているか、簡単にお話しいただけますか。

博士課程を終えてからも植物の研究を続けたいと思っているところへチャンスがあって、大阪大学のある研究室に採用されたのです。そこでは素晴らしい研究者が植物学の分子的側面について興味深い、また将来性のあるテーマを追求していました。この大学は日本最大級の大学の一つですし、産業界とのつながりも強く、学生も研究室を指導している学者も世界的なネットワークを広げています。さらに文化的な面を言えば、大阪大学自体が日本の重要な都市であるだけでなく、京都や奈良のような伝統ある都市にも近いので、私が学びたいと思っている文化に接するにも便利なのです。 私の現在の研究テーマは、植物有用成分のコンビナトリアル生合成です。具体的には、いろいろな植物の有用成分の産生に関わる遺伝子を酵母菌の発現システムの中で組み合わせることです。これで由来の異なる様々な酵素の協同作用によって新しい分子構造を形成できるようになり、新薬の開発につながる可能性があります。これらの天然物の植物自体での役割についても研究しています。

2016年のFWL Tokyo でエリさんはこのプロジェクトとコミュニケーションスキルで参加者15人中の第3位を獲得されました。おめでとうございます。FWLTokyoでどのような経験をされたかお話しいただけますか。

これは大変面白い経験でした。他分野のことを知りたいと思い、また科学上の良いアイデアがどのように公衆に伝えられるかにも興味があったので、日本で革新的なアイデアに取り組んでいる人々と協力するために応募したのです。イベントでは関心をそそる人々に出会えましたし、またアイデアが純粋な研究の枠内にとどまらないことも分かりました。その意味では私の研究室の学生の研究に一層の付加価値をつけるためにも役立っています。もう一つ、私は自分の色々なアイデアをうまく説明するのに気をとられていたので、受賞にはびっくりしましたが、おかげで自分の考えの要点を人に伝えられる自信がつきましたし、この方向を続けていけば近い将来に興味深い結果が得られるだろうと思います。

Falling Wallsについて、どういう点に興味を持たれたのですか。

EURAXESSメーリングリストに登録して、そこから情報を得ました。私が注目したのは、様々な分野の、様々な経歴の人々が集まる科学コミュニケーションのイベントである点です。

Falling Walls Labに参加したいと思っている研究者に向けたアドバイスがありますか。

自分のアイデアへの異議を喚起すること、研究を通常とは異なる形で発表し他分野の人の様々な意見を聞くことは面白いものです。ぜひ批評を受けてみてほしいと思います。

どんな準備をされましたか。今回のイベントで困難だった点や成果についてどうお考えでしょうか。

プレゼンテーションの準備は大変でした。メッセージをスライド3枚にまとめて、しかも他分野の人にも理解できるようにするのは容易ではありません。そのためにTEDのプレゼンテーションをいくつか見たり、インターネットでアドバイスを探したりして、それらに共通の点を自分のプレゼンテーションに応用しました。 私の見るところでは、人目に曝されるリスクと、馴染みのない発表形式に慣れることが困難な点だと思います。成果は、自分の研究が異なった視点から見られることと、将来研究に役立つ可能性のある人脈ができることです。

社会への科学コミュニケーションの重要性についてはどうお考えですか。ご自分の研究キャリアの上で重要になりますか。

社会にとって基本的とは言わないまでも非常に重要だと思います。科学は、情報を適切に利用できるように、一般公衆に伝達され、理解されなければなりません。この意味で私たちは、科学を基礎とするコミュニティの形成に寄与できるはずです。私自身の研究キャリアにとっても、ネットワークを他分野にまで広げる上で重要ですし、助成金申請書の書き方も上達するでしょう。

希望する研究機関でのポストを得たり、投資家あるいは助成金の審査員を説得したりするのに、FWLの参加者であることが影響すると思いますか。

直接の影響はないでしょうが、自分の研究を掘り下げて考え、最も重要な論点やメッセージを引き出す上では役立ちました。伝えるアイデアが良いほど投資家なり審査員なりに与えるインパクトが強くなるのはもちろんです。

FWLTokyoは、人々の研究活動を日本からドイツないしヨーロッパへ広げようとしています。エリさんの研究室あるいは研究プロジェクトでは海外との接触(共同研究)はありますか。

EUとはどうですか。 EUを含めいくつかの外国との共同研究を進めていますが、共同研究をもっと増やせば私たちのレベルも上がると思うので、その方向の努力もしています。

研究者としてのキャリアの上では何をお望みですか。外国、たとえばヨーロッパへ行かれる計画はありませんか。

私の希望は自分の研究を続けると同時に産業的応用へも拡張することです。今のところ移籍の具体的な計画はありませんが、外国との共同研究は強化したいと思っています。もちろんEU諸国も含めてです。ヨーロッパは好きな場所ですが、既に申し上げたとおり、外国へ行く具体的な計画はまだありません。

エリさん、貴重な時間をいただき、ありがとうございました。これからのご活躍をお祈りします。