インタビュー ドイツ航空宇宙センター(DLR)ヨハン=ディートリッヒ・ヴェルナー理事長「日本との戦略的パートナーシップを強化していきます」
2012年2月27日、ドイツ航空宇宙センター(DLR)の東京事務所開設にともない、ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京(DWIH東京)は、在日ドイツ商工会議所との共催で、DLR理事長のヨハン=ディートリッヒ・ヴェルナー博士をお招きして、ランチョンセミナーを開催しました。DLRの活動概要のほか、DLRで行われている研究が現代生活へ与える影響などについて講演されました。DWIH東京では、DLR東京事務所開設の背景などについてヴェルナー理事長にお話を伺いました。
ヴェルナー理事長は、今回DLRの日本代表事務所を開設するために来日されました。この時期に日本に事務所を設立される理由についてお聞かせください。
日本とドイツは、ともに高い科学技術レベルを誇るハイテク国です。現在、すでにDLRは日本では特に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と25の協力協定を結んでおり、約40の共同研究プロジェクトを進めています。さらに、日本の7つの大学・研究機関とも協力関係を結んでいます。今や日本はDLRにとって米国と並ぶ最も重要なパートナー国になりました。東京に代表事務所を構えることによって、日本と戦略的パートナーシップを構築し、東アジア地域における協力関係を強化したいと考えています。新たな代表事務所は、日本をはじめ東アジア地域の学術・行政・産業機関を対象に活動していきます。現地の共同プロジェクト進行の業務を担いながら、東アジアの政治や科学技術の情勢について分析していく予定です。
日本との協力において、今後取り組まれる主要課題は何ですか。
日本は、航空宇宙分野以外でも、持続可能で高度な研究開発計画を策定しています。そして、ドイツと同様、とりわけエネルギー分野で新たな解決策を打ち出していく必要に迫られています。そのため、バッテリーや交通などの研究分野で、非常に高い技術力を持っている日本と協力できる可能性は大いにあると言えます。
宇宙研究開発では、これまで宇宙条件下での研究や災害管理、液化天然ガス(LNG)エンジン、光衛星間通信などの分野で協力関係を築いてきましたが、そのほかにもさまざまな新しいプロジェクトが考えられます。現在、2014年末に打ち上げ予定の日本の小惑星探査機「はやぶさ2」に、DLRの移動探査が可能な小型ランダーMASCOTを搭載するプロジェクトが進行中です。
JAXAとDLRは、10年ほど前から宇宙航空分野の協力について話し合う会合を毎年開いています。重点分野は、数値流体力学、地球的衛星測位システム、スクラムジェットエンジン技術、燃焼技術などです。宇宙航空分野で、さらなる共同プロジェクトを行う大きな可能性があります。
また、東北大学とは、感温塗料(TSP)や感圧塗料(PSP)、高感度塗料を用いた飛行中の温度・圧力測定法の分野で長年にわたる協力関係が続いています。
日本は1月に次期「宇宙基本計画」を決定し、民間による宇宙開発利用を促進する一方、有人宇宙活動に対する政府支出を縮小する方針を示しました。ドイツやヨーロッパの状況と比較して、日本の動向をどのように評価されますか。この決定は、DLRとJAXAの共同研究に影響があるでしょうか。
世界的な経済情勢の変化によって、社会はあらゆる場面で対応を迫られています。宇宙研究の領域では、国の役割が重要でも、打ち上げロケットなど宇宙空間の利用に関しては、新たな道を模索していかなければなりません。その場合、さらなる民営化や商業化が必要になるかもしれませんが、実はこうした方法の成功例は世界中で見られます。ヨーロッパでは、打ち上げロケットを販売するアリアンスペースの設立によって、かなり早くからこの道を歩んできました。
今回日本が決定した方針が、日独の共同研究開発に直接的な影響を及ぼさないとしても、もちろん今後の成り行きを注意深く見守り、何か学べることがないか検討していきます。
ヴェルナー理事長ご自身も1980年代に日本に住んでいらっしゃいました。日本の魅力は何だとお考えですか。
日本で暮らした時のことは、今でもとても良い思い出です。特に人々の優しさと寛容さに感銘を受けました。常に私は日本社会の発展を注意深く見守っています。科学の世界に身を置く私自身が、日独両国のさらなる協力関係の構築に尽力するのは、私の使命でもあります。残念ながら、私の大好きな国である日本になかなか来ることはできませんが、あらゆる機会を利用して訪れたいものです。