5Gを超える!日本とドイツで進む6G(Beyond 5G)研究開発プロジェクト
2021年12月2日
【文:熊谷 徹】
ドイツで研究開発が進む製造業のデジタル化プロジェクト・インダストリー4.0や、日本で進む社会のデジタル化計画・ソサエティー5.0を実現するには、現在のデータ伝送速度を大幅に上回るシステムが不可欠だ。日本とドイツでは、第5世代移動通信システム(5G)の次の世代に関するプロジェクトが始まっている。
4つの6G研究開発ハブを政府が支援
ドイツ連邦教育研究省(BMBF)のアニヤ・カルリチェク大臣は、「我々は第6世代移動通信システム(6G)におけるリーダー国となるために、今後5年間に6G関連技術の研究のために総額7億ユーロ(910億円・1ユーロ=130円換算)の連邦予算を投じる」と2021年6月29日の会見で、発表した。(BMBFプレスリリース Karliczek: Wir wollen bei 6G an der Spitze sein)
BMBFが支援するのは、次の4つの6G研究開発ハブだ。これらのハブには、BMBFのイニシャチブの下に、情報技術を研究している科学者約50人が参加し、6G開発のための研究開発を行う。これらのハブが6G実用化へ向けての重要拠点となり、将来ドイツに6Gエコシステムを形成する。BMBFは、このハブから6Gに関する様々な技術革新が行われることを期待している。
ハブの名称 | 中心となる研究機関 |
Open6GHub | ドイツ人工知能研究センター |
6G-RIC | フラウンホーファー情報技術研究所 フラウンホーファー・ハインリヒ・ヘルツ研究所 |
6GEM | アーヘン工科大学 |
6G-Life | ドレスデン工科大学 ミュンヘン工科大学 |
この内6G-Lifeは、人間と機械のコラボレーションに力点を置くとともに、データの伝送量が増えてもエネルギー消費量が増えることを防ぐ技術を研究する。このハブに参加するドレスデン工科大学とミュンヘン工科大学は、ベンチマークになる技術革新プロジェクトを実施することで、民間企業やスタートアップ企業を積極的に6G関連技術の開発に取り込んでいく方針だ。
また6G-RICは、技術の境界を乗り越えたオープンな移動通信システムの開発を目指すとともに、6G技術の実験のためのインフラの構築を急ぐ。さらにOpen6GHubは、2030年以降実用化される全体的な6Gシステムのデザインを担当する。このハブは、ドイツ国内だけではなく欧州、さらに世界全体にドイツの6G技術を標準として普及されることも視野に置いている。
カルリチェク大臣は、「6Gの伝送速度は5Gを大幅に上回り、データ保護に関する安全性やエネルギー効率も高い。このため、6Gは2030年以降、経済・社会のデジタル化において中心的な役割を果たすと予想されている」とこのテクノロジーの重要性を強調した。さらに大臣は、「ドイツはこの革命的技術に関する先駆国になるために、今から研究開発に力を入れる」と指摘。
またカルリチェク大臣は「データの安全性を確保するためには、新しい情報技術の開発において、他国よりも一歩先に進むことが重要だ。我々はデジタル技術において他国に依存しないで済むように、早期に研究開発を進める必要がある」と述べている。この言葉には、5Gに関してドイツなど欧米諸国の研究開発が、中国に比べると大幅に遅れ、中国企業が当初多くのマーケットで主導権を握ったことについての反省がこめられている。
日本も積極的に取り組み
日本では6GはBeyond 5Gと呼ばれることが多いが、すでに政府・企業の取り組みが始まっている。2020年6月には、政府関係者と科学者たちの作業部会が、プロジェクトのための基本文書「Beyond 5G推進戦略・6Gへのロードマップ」を策定した。2020年12月には産官学が一体で、6Gを推進するための団体「Beyond 5G推進コンソーシアム」を設立した。
この団体は、2025年に開催される予定の大阪・関西万博で「Beyond 5G/6Gが実現する未来社会」を示すことになっている。日本政府が構築を目指すデジタル社会ソサエティー5.0を現実化するには、伝送速度が高い6Gシステムが必要だとされている。
「6Gへのロードマップ」によると、6Gのアクセス通信速度は、5Gの10倍、コア通信速度は現在の100倍に達する。また伝送の遅延頻度は5Gの10分の1になるという。
6Gは、国境を越えたテクノロジーであり、グローバル・スタンダードの確実が重要だ。このため将来、日独の政府、企業、学術関係者の間で、6Gをめぐる協力が進む可能性もある。
6G(Beyond 5G)における日本とドイツの連携については、こちらのページも併せてご覧下さい。
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熊谷徹氏プロフィール
1959年東京生まれ。1982年早稲田大学政経学部経済学科卒業後、NHKに入局。日本での数多くの取材経験や海外赴任を経てNHK退職後、1990年からドイツ・ミュンヘンに在住し、ジャーナリストとして活躍。ドイツや日独関係に関する著書をこれまでに20冊以上出版するだけでなく、数多くのメディアにも寄稿してドイツ現地の様子や声を届けている。