インタビュー ドイツ持続可能性高等研究所所長クラウス・テプファー教授 「エネルギー転換は、科学の挑戦にとって宝の山です」
2012年7月25日、ドイツ 科学・イノベーション フォーラム 東京(DWIH東京)は、在日ドイツ商工会議所との共催で、 ドイツ持続可能性高等研究所(IASS)所長で、元ドイツ連邦環境・自然保護・原子力安全相のクラウス・テプファー教授の講演会を東京で行いました。ドイツにおけるエネルギー政策について、また、日本の今後の原子力エネルギーや再生可能エネルギーの方向性について幅広く議論されました。DWIH東京では、ドイツと日本のエネルギーにおける課題等についてテプファー教授にお話を伺いました。
テプファー教授、あなたは福島原子力発電所事故後にドイツ連邦政府によって設立された「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」の議長を務めました。倫理委員会が召集された目的と結果について教えてください。
倫理委員会では、エネルギー供給に関する決定プロセスに一般の人々を幅広く参加させる努力がなされました。エネルギー供給に関する決定を経済的・技術的観点からだけではなく、より社会の価値体系に基づいて行うということを明確に打ち出すことが求められました。当初は残念ながら強く批判されました。しかし、時間の経過とともにやがてこの試みが非常に重要でよい基盤となることがわかってきました。そして、疑わしい場合には、たとえ経済的には不利であっても危険がより少ない技術に取り組むべきであるという結論に達しました。この結論は、最終的に肯定的に受け入れられ、批判的な声は小さくなりました。
倫理委員会の進言に基づいて、2022年までにドイツ国内全ての原子力発電所の稼動を停止することが決定されました。ドイツのエネルギー転換計画を実現するにあたってどのような課題があるとお考えですか。
まず最初に強調しておきたいのは、この決定が重要な意味を持っているということです。内容だけではなく、連邦政府による脱原発の提案を議会がほとんど全会一致で採択したことに大きな意味があります。つまり、今回は一部の党派だけが賛同したのではなく、政界全体の共同作業となったのです。またそうあり続けなくてはいけません。これによって、全体的なプロジェクトが実現する可能性が高まり、再生可能エネルギーや新たな電力網 ―これも非常に重要です― の分野への投資を行う公算が大きくなっています。次の連立政権が、前回のように今回の決定を再び疑問視するとはもはや考えられません。
日本は今年、原子力発電所の定期検査のために、一時的に原発ゼロになりました。しかしながら、国民による強い抗議運動や、依然として将来のエネルギー供給についての戦略的計画がまとまっていない状況にもかかわらず、先日、1基目の原子力発電所が再稼動されました。日本の脱原発は現実的で望ましいと思われますか。どのような点でドイツは模範となることができるでしょうか。
ドイツは、必ずしも模範になろうとしてきたわけではないと思います。我々が常に重視してきたのは、現在ドイツが取り組んでいる脱原発が今ある可能性のうえに築きあげられるものだということを明確にすることです。しかし、我々はすでにチェルノブイリ原発事故後から、エネルギー効率向上と再生可能エネルギー実現に向けた技術開発に力を入れて取り組んできました。依然として困難な問題は存在しますが、我々の努力は報われつつあります。今回多くの情報を得ることができたとはいえ、私は5日間日本に滞在しただけですから、日本がどの程度こうした可能性を有しているかについては、日本人の方がよく判断できると思います。しかし、日本の脱原発の可能性については、国民との幅広い議論の中で進められることを願っています。この幅広い議論というものが、開かれた民主主義において常に重要な問題であるからです。そのため、冒頭で述べた倫理委員会は、ドイツにとって非常に有益なものでした。
日独両国の科学にとって、エネルギー転換の実現に向けてどのような課題がありますか。
以前はないがしろにされていた多くの側面を、真正面に据えて取り組む必要があります。自然科学の中だけではなく、社会科学の中でも取り組んでいかなくてはいけません。国民の参加は重要で、さらなる効果をもたらします。技術的な面においては、学ぶべきことが際限なくあり、常に発展していく必要があることを我々は認識しています。エネルギー転換にとって重要な要因である電力網の課題は、さらなる技術的進歩が強く必要とされていることを示しています。エネルギー転換は科学技術の挑戦にとって宝の山です。ドイツの科学界がエネルギー転換について積極的に取り組んでいるのは大変喜ばしいことです。国外から問い合わせや提案をいただくこともしばしばあります。いずれにせよ、政府や民間、産業界がこうした必要性に対して支援・推進の態度を示しているのを嬉しく思います。