日独国際産学連携共同研究(オプティクス・フォトニクス分野)の新規課題決定
第2期日独国際産学連携共同研究「オプティクス・フォトニクス分野(2+2産学プロジェクト)」に採択された3件が、2020年10月1日に研究を開始します。
1) コヒーレントEUV放射のための近赤外および中赤外レーザー光源及び新たなレーザーオプティクスの開発 (MIRROR)
研究代表者(独)
フラウンホーファー応用光学・精密機械工学研究所(IOF)クリスティアン・グレービング博士
フラウンホーファー・レーザー技術研究所(ILT) ペーター・ルースビュルト博士
アクティブファイバーシステムズ社ティノ・アイデム博士
研究代表者(日)
東京大学山内薫教授
早稲田大学鷲尾方一教授
東海光学株式会社杉浦宗男副主幹
研究実施期間
2020年10月1日~2023年9月30日
近年、レーザー照射による高次高調波発生(HHG)を用いたコヒーレントEUV光源の開発が急速に進んでいます。この種の放射光固有の特性を用いることにより、最小の空間的・時間的スケールで物理・化学・生物学的現象を解明することができるようになるため、学術・産業両面で多様な応用可能性が広がっています。本プロジェクト「MIRROR」では、シンクロトロンに似た放射光をコンパクトにかつコスト効率良く提供できるよう貢献することを目指し、高光子エネルギーにおける光強度を大幅に高めるため、波長の長い高出力ファイバーレーザーを用いるコンセプトを採用しています。日本からは東京大学、早稲田大学、東海光学株式会社が、ドイツからはフラウンホーファーIOFとILTに加え、アクティブファイバーシステムズ社が参加し、近赤外および中赤外波長領域の光源や新たな光学素子の開発と、それらを用いたコヒーレントEUV光の生成に取り組みます。両国の共同研究者が注目するのは波長2μm以下の光源です。日本側産業界パートナーは、高出力レーザーのハンドリングに欠かせない低入熱分散ミラーや、赤外線およびEUV光の分離に用いる光学部品の開発を担います。現在市販されている部品は質が不十分であることから、日本側との協力にプロジェクト全体の成功がかかっています。ドイツ側産業界パートナーが取り組むのはEUVから軟X線に至るまで高出力なコヒーレント光源の開発です。開発に際し日独の研究機関は各自の経験を生かした支援を行い、企業側は有望な応用分野(半導体、微生物学、医療)に目を向けます。このプロジェクトを通じて得られた日本とのつながりは、日本市場やアジア市場への参入を容易にする可能性を秘めています。
2) 小型全有機近赤外発光・分光センサシステムの開発(FLEXMONIRS)
研究代表者(独)
ドレスデン工科大学カール・レオ教授
ゼノリクス社ロニー・ティムレック博士
研究代表者(日)
山形大学城戸淳二教授
伊藤電子工業株式会社伊藤圭一代表取締役社長
研究実施期間
2020年10月1日~2023年9月30日
プロジェクト「FLEXMONIRS」ではザクセン州と米沢地方に拠点を置く4つの大学・企業がネットワークを強化し、科学・経済に共通する目標である「食品包装等に応用可能な小型近赤外分光センサシステムの開発」に貢献します。近赤外分光センサーは、品質管理プロセスや特定の分子の識別をはじめ多くの市場で重要な役割を果たしていますが、現在のシステムは大型で重く高価であり、1000 nmを超える波長には感度が悪いことから、用途が大幅に限定されています。そこでドレスデン工科大学とゼノリクス社は低コストで高機能、とりわけ小型の部品を用いた近赤外分光センサーの革命的な応用展開に繋がりうる、有機近赤外センサーを開発しました。ただ、小型化のためには互換性がありコスト効率良くシステムに組み込める光源が必要です。山形大学の近赤外有機ELに関する新たな研究成果は、互換システムが可能であることと、有機センサーと対をなすデュアル近赤外センサシステムの製造が可能であることとを示しています。このような1000 nmを超える波長を持つ近赤外有機ELの開発は、多くの分野に応用可能なセンサシステムの開発を加速させるものです。部品設計や小型電子モジュール量産の経験に富む伊藤電子工業の協力により、このプロジェクトでは二つの有機技術を一つの部品に統合した、集積型全有機近赤外発光・分光センサシステムのプロトタイプ実現を目指します。
3) ナノインプリント技術およびナノ粒子を用いた高感度・高機能性SERS /LSPRバイオセンサーの開発を目的とする、プラズモン新素材の設計・製造・バイオ分析試験(PlasmonBioSense)
研究代表者(独)
ライプニッツ光学研究所(IPHT)ヴォルフガング・フリッチェ教授
テミコン社トーマス・ルール氏
研究代表者(日)
阪大先端フォトニクス・バイオセンシングオープンイノベーションラボラトリ民谷栄一ラボ長
呉工業高等専門学校田中慎一准教授
古野電気株式会社西森靖取締役
株式会社バイオデバイステクノロジー牛島ひろみ取締役
株式会社オプトラン範賓取締役
研究実施期間
2020年10月1日~2023年9月30日
本プロジェクト「PlasmonBioSense」は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)(ライプニッツ光学研究所)および表面増強ラマン散乱(SERS)(日本側)で使用する新たな高機能性プラズモンセンサー基板の開発とテストを行うものです。これらの基板はコスト効率の良い複製技術であるナノインプリントリソグラフィ(NIL)(表面の細孔に金ナノ粒子が集積)を用いて作製したナノ構造の金センサーを基礎とし、電場を局所的に著しく増強できることから、LSPRおよびSERSの感度を最大限まで高めることが可能になります。計画ではそのようなLSPRおよびSERSを利用し、史上初となる複数サンプルの同時計測を行う多機能センサーを開発します。このコンソーシアムにはナノ構造化やLSPRおよびSERSによるバイオ分析・活用の分野で培われた経験と専門知識が集積しています。ドイツのライプニッツIPHTはLSPRをはじめとするナノセンサーを用いた新たなバイオ分析メソッド開発のエキスパートであり、テミコン社はNILを含む構造化に携わっていることから、ドイツ側はNIL基板の設計・構築を行います。日本側はSERSバイオセンサーと関連機器分野における長年の経験を相乗的・補完的に活用し、NIL構造上に金ナノ粒子を精密に充填することで、LSPR基板を実現するとともに、バイオ機能を付加してDNA分析に活用するため試験を実施します。このプロジェクトはLSPRおよびSERSのバイオ分析やナノ構造、活用に関する専門知識を持つ関係者を束ね、LSPRとSERSを用いた初めての同時計測・再生産可能な高感度基盤の作製を目指します。応用分野にはDNAベースのバイオ分析、とりわけ病原体(水中病原菌、院内細菌、バクテリアやウイルスなど人畜共通感染症の病原体のほか、コロナウイルス)の検出が考えられます。その革新的な構造により、自己免疫疾患や免疫状況を検出するための免疫学的測定のような分野にも応用が可能です。このような新型ナノセンサーは現在のSERSおよびLSPRセンサーに匹敵する感度の向上により、少ないサンプルでも高度な検出を可能にします。新しいナノ構造が持つ可能性を、アカデミア側は企業との新規プロジェクトに、企業側は新製品の生産と市場化につなげることを期待しています。